プレス発表:平成25年12月6日

覚醒時の経験が、その後の眠気に大きな影響を及ぼすことを立証

 

研究成果のポイント

 
1. 副腎皮質から分泌される副腎皮質ホルモン*1は、視床下部-下垂体前葉-副腎の内分泌系の制御を受けることが知られていた。しかしながら、副腎皮質における局所的な制御についてはこれまで知見がなかった。
 
2. マウス副腎皮質の局所における、副腎皮質ホルモンの新しい分泌制御機構を発見した。
 
3. その制御機構が雌マウスにおいて抗不安作用に結びついていることを明らかにした。
 
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国立大学法人筑波大学(以下、筑波大学)国際統合睡眠医科学研究機構(International Institute for Integrative Sleep Medicine, WPI-IIIS)柳沢正史教授らの研究グループは、マウスを用いた研究により、副腎皮質由来のストレスホルモンであるグルココルチコイドの日内変動*2が、副腎皮質においてこれまで知られていなかった機構によって制御されていることを明らかにしました。さらに、日内変動の振れ幅が大きくなることが、雌マウスにおいて不安を軽減する作用に結びついていることを立証しました。
これらの発見は、副腎皮質の副腎皮質ホルモンの作用が従来知られていた内分泌系による制御だけでなく、副腎皮質の局所においても制御されているという新しい知見を与えるものです。本研究は、米国・テキサス大学サウスウェスタン医学センターの池田祐一、Amber Skach、佐藤牧人と、筑波大学WPI-IIISの熊谷英敏、柳沢教授の共同研究で、Cell誌2013年12月5日号(オンライン版米国東部時間午後12時)に掲載されます。
 
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研究の背景

 
副腎は副腎皮質ホルモンを分泌する内分泌器官であり、そのひとつであるグルココルチコイドは、体内で「ストレスホルモン」として様々な作用を有しています。その分泌は視床下部、下垂体前葉、副腎皮質からなる経路によって調節されており、例えば脳がストレスを感じると、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出因子が、続いて脳下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンが放出され、さらに副腎皮質からグルココルチコイドが分泌され、抗ストレス作用が発現します。また、副腎や下垂体の腫瘍その他の病変によるグルココルチコイドの分泌の撹乱は、身体的疾患の原因となるだけでなく、様々の精神的症候や疾患とも関わっていることが知られています。しかし、副腎皮質局所での細胞間シグナルによるグルココルチコイドの制御機構はこれまでわかっていませんでした。
 

研究内容と成果

 
研究グループは、加齢等に伴って副腎皮質にしばしば見られる組織学的変化である被膜下細胞過形成(SCH)*3に着目し、SCHの局所で脳内モルヒネ遺伝子*4が特異的に高い発現をしていることを検出しました。次にその遺伝子産物であるオピオイドペプチドがケモカイン受容体*5のひとつを特異的に刺激し、リガンドと受容体の関係で働くことを見出しました。この新しいリガンドと受容体の組み合わせは副腎皮質刺激ホルモンによるグルココルチコイド分泌促進作用を相乗的に増強します。SCHを有するマウスでは、グルココルチコイド分泌の総量は変化がありませんでしたが、雌マウスにおいて日内変動の振幅が増大し、不安に対してより落ち着いた行動をとることがわかりました。さらに、同じケモカイン受容体を刺激する低分子化合物を投与しその影響を調べたところ、SCHを有するマウスと同様にグルココルチコイドの日内変動の振幅が増大し、不安を感じにくくなっていました。グルココルチコイドは視床下部—下垂体—副腎内分泌系で制御される副腎皮質ホルモンの一種として体内の様々な場所で作用していますが、今回の発見により副腎皮質の局所において従来とは異なるまったく新しい制御を受けていることが明らかにされました。本研究の成果は、グルココルチコイドが関与するとされる精神疾患(うつ病、PTSD、クッシング症候群等)のメカニズム解明に重要な知見を提供しうると期待されます。
 

今後の展開

 
副腎皮質でのグルココルチコイドの日内変動が、脳内モルヒネ遺伝子産物とケモカイン受容体により制御され、抗不安作用を表すことを明らかにしました。今後は今回発見した制御の詳細な解析を進めるとともに、創薬ターゲットの可能性に関しても調べていきます。
本研究は、柳沢への内閣府/日本学術振興会・最先端研究開発支援(FIRST)プログラム、戦略的創造研究推進事業(ERATO)、およびハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)の支援を受けています。国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)は、文部科学省・世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)により支援を受け、設立されました。
 

参考図

 
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図:
被膜化細胞過形成を起こしたマウスの副腎皮質では、脳内モルヒネ遺伝子産物(BAM22/ペプチドE)によるケモカイン受容体(CXCR7)の刺激を介して、グルココルチコイドの日内変動の振幅が増大し、不安な状況でも落ち着いている。
 

用語解説

 
*1 副腎皮質ホルモン
 副腎皮質から分泌されるステロイド骨格をもつホルモンの総称。アルドステロン、コルチコステロンなどが知られる。
 
*2 日内変動
 一日の中で体温・心拍数・血圧等の値や、睡眠覚醒のリズムが、「体内時計」によってコントロールされて変動すること。副腎皮質ホルモンは大きく日内変動をすることが知られている。
 
*3 副腎皮質の被膜下細胞過形成(SCH)
  副腎皮質に高い頻度でみられる組織学的形態変化で、副腎表面付近の層の細胞数が増え、肥厚化すること。加齢とともに増加し、ストレスや性ホルモンによっても影響を受けることが知られている。
 
*4 脳内モルヒネ遺伝子
 生体内で合成されモルヒネと同様の作用を示す神経伝達物質の遺伝子である。3種類の脳内モルヒネ遺伝子が同定されている。今回副腎皮質での作用に関係していることが判明した脳内モルヒネ遺伝子はエンケファリンA遺伝子で、副腎皮質ではBAM22とペプチドEなどのオピオイドペプチドが最終遺伝子産物として産生される。
 
*5 ケモカイン受容体
 ケモカイン受容体はいずれもGタンパク質共役受容体である。現在までに19種類のケモカイン受容体が同定されている。今回副腎皮質での作用に関係していることが判明した受容体はCXCR7である。脳内モルヒネ類の古典的な受容体(オピオイド受容体)とは全く異なる受容体群。
 
*6 リガンドと受容体
 リガンドとは特定の受容体に結合する物質のこと。リガンドと受容体の組み合わせは決まっており高い親和性と特異性を有している。
 

掲載論文

 
“Modulation of Circadian Glucocorticoid Oscillation via Adrenal Opioid-CXCR7 Signaling Alters Emotional Behavior”
 
著者: Yuichi Ikeda, Hidetoshi Kumagai, Amber Skach, Makito Sato, Masashi Yanagisawa
発行日: Cell 155, 1-14 2013年12月5日号 (米国東部時間午後12時 オンライン版掲載予定)
 

問合わせ先

 
柳沢 正史(やなぎさわ まさし)
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長 / 教授